BLACKBURN OUT THERE JAPAN IMAGES
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BLACKBURN
OUT THERE JAPAN

京都・美山 in Spring 2017

INTRODUCING OUR TEAM

  • ナタ

    使用バイク:ROYAL NORTON TOURING CYCLOCROSS
    好みのタイプ:太りやすい人

  • サンボ

    使用バイク:KONA PRIVATE JAKE
    バイクパッキングの魅力:工夫して荷物を積むのが楽しい

  • イイクン

    使用バイク:PANASONIC ORDER SYSTEM FSS3
    自転車の魅力 お金をかけずに色んなところへ行ける事

  • 店長

    使用バイク:ALAN CROSS XTREME SCANDIUM
    好きな食べ物:ビュッフェスタイル

  • キタジマ

    使用バイク:COMMENCAL META HT AL
    趣味:お酒に呑まれること


自然をこよなく愛する新宿生まれ新宿育ちの元都会っ子サイクリストの私(♀)
その私以外は4人全員が自転車屋さんというメカトラブルにはめっぽう強い布陣でありながなら、そろいもそろって漂わせているおっちょこちょいの香り…。

ちょっぴりの不安とたくさんの笑いをパッキングして、京都・美山へキャンプツーリングに行ってきました。峠あり・グラベルあり・トレッキングあり・愚痴ありの盛りだくさんで、ガイドブックには載っていない京都の魅力をお届けします。

協力:サイクルショップeirin丸太町店

INTRODUCTION

DAY 1-1

5月某日、サスペンスドラマでもおなじみの鴨川デルタで待ち合わせた5人。さっそくサンボが忘れものをとりに戻ったらしいが、誰ひとり慌てる気配はない。「30分遅れ行動」は私たちの基本、予定通りのスタートというわけだ。アカツメクサがびっしり咲き乱れる鴨川を上流へとあがり、世界遺産の上賀茂神社でひとまず記念撮影をする。

京都は平らで碁盤目の街というイメージをもたれがちだが、碁盤目から一歩外に出ればすぐ里山があり、その奥にはキツネやリスが生息する森が広がっている。「自然」へのアクセスが非常によいのが京都の最大の魅力なのだ、と私はひそかに考えている。

街から北へ抜けようと思えば当然のごとくどこかで峠を越えなければならない。私たちは京の奥座敷・貴船にある芹生峠に向かった。

上賀茂神社から府道38号線を進めば、道幅は狭くなり登り基調となっていく。ガードレールの下ではシャガの群生が淡い紫色の花びらを揺らしていた。シャガはこの辺りの里山でよく見かける日陰に咲く可憐な花だ。38号線はそのまま鞍馬へと続くが、二股を361号線に入るとすぐに青いモミジが涼しげな貴船に到着する。貴船は夏場でも不思議なくらいひんやりとしている。5月から川床がはじまり、提灯なんかが出ていてなんともいえない風情だ。

「一人で歩いている若い女性が結構いませんか?」といつも元気な北島くん。「貴船神社が有名なパワースポットになってるみたいだよ」と私。

ここにいる観光客はおそらく京の奥座敷のさらに奥に何があるのかを知らないのだろう。すぐそこには最大勾配20%超の恐ろしい芹生峠があるというのに。

いよいよヒルクライム、というところで今度は店長が「さっきのトイレに忘れものをした」と言いだす。「なんでやねん」とつっこみは入れるものの、足は止めずにペダルを回し続ける。店長をまきたかったわけではない。人を待つくらいなら少しでもリードを稼いでおくのが得策だからだ。

なにせこの芹生峠、急勾配だわ、軽トラがやっと走れるくらいの狭さだわ、おまけにガレているわ。「荷物さえなかったら普通に登れるんだけど」と言い訳をして私はさっそく自転車を降りる。しかし、降りたら降りたで道のりがやたらに長い。景色はただ鬱蒼としているだけで特段見るものもない。

「もう少しで頂上や」「もうすぐ着くはずなんですけどね…」とみんなからお定まりの励ましをうけつつ、パワースポットで頂いたパワーをすべて消費して頂上に到着。頂上もまた鬱蒼としていて、貴船の華やぎなどみじんも感じない静けさだ。

峠を隔てた別世界、冒険はむしろここから始まるらしい。さあ、次はうれしいダウンヒルとお待ちかねの林道だい。

ここにいるのは林道が大好きなみなさん。日頃から「あの道、行けるんちゃうか?」とめぼしい林道を探してウロウロしているのだ。ただ一人グラベルに対して苦手意識を持っている私も、前輪38C後輪36Cと太めのタイヤを履いてきたおかげで快適に走れる。

京都では見慣れた杉木立だが、木と木の間から差し込む光線はいつ見ても美しい。沈んだ色合いの林の中にあざやかな赤紫色の花を咲かせたクリンソウの群生を見ることもできた。

一同ご機嫌に県道へと戻ったところで最年少の伊井くんの自転車がパンクする。でもそこは自転車屋さん、チューブ交換など休憩にもならないほどの速さだ。この隙にと補給のためのワッフルをほおばっていると、伊井くんの持参したサンダルが、ヴィブラムソールの補修パーツに革を貼りつけて鼻緒を通したお手製のものだという話が聞こえてくる。しかも長年愛用しており、山歩きのときはもっぱらこれを履いているという。

彼のことを「物に恵まれた世代の顔がいい青年」とだけ思っていた自分を深く反省する。

DAY1

DAY 1-2

林道ではしゃぎすぎたせいで「1時間遅れ行動」となっていたが、とにかく京北町まで行かなければ昼食がとれない。国道477号線に合流し、平坦基調の道をひたすら走る。京都にしては閉塞感の少ないひらけた田園風景が広がり、この時期には植えつけられたばかりの稲の赤ちゃんがきれいに整列している。ピンク色に染まったレンゲ畑を見るのも楽しい。私はてっきり、あのレンゲソウは勝手に生えているのだと思っていたけれど、レンゲソウは空気中の窒素を栄養に変えてくれるので農家が種を蒔いているのだそうだ。

しばらくは景色を眺めながら快走していたものの、空腹とともにペースは落ちるし風も出てきた。「よかったら、ぼくがひきますんで」と言いながら先頭を走っていた私の前に北島くんが現れ、一気に好感度をあげる。

紳士・北島がMTBの太いタイヤをブンブンいわせて前をひいたおかげで、予定通り1時間遅れで京北町に到着。スーパーでバーベキューの食材をわんさか買い込み、軽めの昼食を済ませる。ここから国道162号線を北上して美山へと向かう。

あいかわらず紳士・北島の後ろにピッタリとついて走っていた私だが、横からの風が強まったところで見事に中切れしてしまった。漕げども漕げども前に進まないし、追いつく気がしない。

「なかなか風が強いっすね」と言いながら、次はサンボがさりげなく前に出てきてくれた。それからまた何かの拍子にサンボからもちぎれてしまうが、いかにも風よけに最適な体つきをした店長がふと目に入ったので、「ちょっとそこの人、お待ちなさい」と自分から声をかけてひいてもらう。

こういう紅一点のツーリングを幾度か経験してきた私が心がけるようになったのは、「無理をしすぎない」ということ。足をひっぱりたくないという気持ちはもちろんあるし、私みたいにトムソーヤに憧れた少女時代を送っていると、「男の子には負けられない」というヘンな負けん気をどこかに隠し持っているものだ。けれど大人になった今、骨格・筋肉量・フレームサイズ…何から何まで違うし、生理がくれば体重も増えて貧血にもなる。

冒険は男子だけのものじゃない。そして体力に自信のあるごく一部の女子にだけ許されたものでもない。 「自分はこういう人間なんです」と勇気をだして宣伝していれば、そういうものかと仲間もちゃんと理解してくれるわけで、その勇気がないために冒険を諦めるなんてのは勿体ない。

もとより、努力と工夫は必要だ。男だったら考える必要のない課題を一つ一つクリアしていくうち、「女もまあ悪くはないな」と思えてくるこの不思議さよ。

道の駅で名物の美山牛乳ソフトクリームを補給したあと、「かやぶきの里」に立ち寄った。小さな集落のほとんどが伝統的なかやぶき屋根の家で、まるで絵本にでてきそうな風景だ。大型観光バスが乗りつけるだけでなく、京都市内に住む人たちがドライブで訪れることも多い。庭先の花が咲きそろうこの季節は特にきれいだが、かやぶきの家が人々の生活の中に今も生きているところがやっぱりすごい。

道すがらキリ(桐)の花が咲いていた。私が「あ、キリだ」と言うと、男の子たちの頭にはハテナマークが浮かんでいる。「箪笥のキリだよ」「これが?」「意外と木が細い…」たしかに。家具をつくるには効率が悪そうな木だ。湿気を通さないとか、発火しにくいとかいうのが箪笥にされる理由らしい。

すでにお察しのとおり、都会では見られない植物をこうやってファイリングしていくのが私のささやかな楽しみなのだ。

日は暮れつつあるけれど、キャンプ場はすぐそこ。由良川の野性的な流れを眺めているうちに自然文化村に到着する。ああ、なんて嬉しいんだろう。まるで我が家に帰ったような安心感だ。「疲れた」の一言が我知らず口からこぼれた。

近頃のテントは組み立てが本当に楽だ。さっさと野営を張って行きたかったのは、自然文化村内にある立ち寄り湯。長い一日で体はドロドロ、汗やら日焼け止めやら小バエやらを一気に洗い流すほど愉快なことはない。「みんなは先に帰っててね」と言ってあるから、慌てる必要もない。「この間に夕食の準備が済んでいればいいのに」と期待しながらしっかり髪を乾かしてキャンプ場に戻ると、チームワークばっちりの男性陣がすでに火おこしと食材の準備をしてくれていた。バーベキューが始まり、肉に次ぐ肉の応戦。男衆の食欲に若干ひきながら、自分も負けじとタンパク質を摂取する。

食後のコーヒータイム、店長が「トランプやる?」と修学旅行生みたいなことを言い出す。さっさと寝たい私はそっとその場を離れたが、フラフラしていた酔っ払い・北島が、星が見えると教えてくれる。ものすごい数の星が出ているのに全然気がつかなかった。うっすらかかっていた雲がいつのまにか晴れたらしい。長野や北海道で満天の星空を見たことはあったけど、まさか自宅から自転車で来られる距離にこんな星空があるとは思っていなかった。たくさん見えすぎて、星座もなにもわかったもんじゃない。

背中が痛いのを我慢して砂利の上に寝転がると、ちょうど自分の真上でキラリひとすじの流れ星。こればっかりは写真でシェアしたりできないのだと思ったら、「来てよかったな」と素直に感じた。

DAY2

DAY 2

二日目の朝。寒さでよく眠れなかったうえ、うつ伏せになっていたせいで目がパンパンに腫れている、という最悪のコンディションで目を覚ます。起床時刻の15分前。すべてを放棄して二度寝しようか迷ったが、化粧をする時間を加味して跳ね起きる。

どんなひどい状況でも朝の光はあたたかい。朝の太陽は一日を乗り切る力を与えてくれるのだ。お湯を沸かし、インスタントラーメンに美山産の新鮮な卵を落とす。最後まで寝ていた店長が起きてくるなり「一口くれ」とせがんでくるが、「嫌や」とお断りする。今日もハードな一日、朝食は男子と変わらない量をとる。ラーメンの他にも目玉焼きと美山産のソーセージを挟んだパン。それに伊井くんが淹れてくれる美味しいコーヒーを飲みながら、各自バタバタと出発の準備をする。

空には雲がひとつもない。昨日よりも暑くなるだろう。澄みきった由良川では魚がヒューンと高速で泳いでいるのが見える。時間さえ許せば、みんなビブ一枚になってとび込んでいるに違いない。

ペダルを踏むとすぐに前日の疲れが残っていることに気がついたが、「朝の空気の中で自転車乗るのは気持ちいいですね」というサンボの言葉に背筋を伸ばす。この冴えわたる空気を味わいながら自転車に乗ることがどれだけ恵まれているか。都会を離れて6年が経ち、そんなことを忘れかけている自分がいる。

目覚ましがわりに坂道を登ってやってきたのは「芦生の森」(京都大学芦生研究林)。福井と滋賀に接する広大な森林で、一部には原生林が残っている。申請をすれば入林可能な箇所もあり、ここでは自転車を降りてトレッキングを楽しむ。クマ・マムシ・ヤマビル・マダニに注意という恐ろしげな看板も立つが、由良川の源流に沿って軌道を歩くコースは青葉のきらめきに包まれ、息を呑む美しさ。一瞬「ここ、どこだっけ?」と思うほど。いったい京都の街にいる人たちは、こんなに素晴らしい場所があることを知っているのだろうか。まあ、知らないなら知らない方がいいのかもしれない。

植物の種類はとんでもなく豊富で、希少種などの見分けがつかない私たちでもテンナンショウを見つけたりした。「次はもっと樹木の名前を覚えて来よう」と心に誓って駐車場に戻ると、ウマノアシガタがたくさん咲いていた。特に珍しいわけじゃないけど、黄色い丸っこい花がなんとも愛らしくて好きだ。

花なんか全然興味のなかった男子も「かわいい」と胸をキュンキュンさせて写真を撮っている。私はすかさずフレームバッグから日焼け止めクリームをとりだす。すでに顔中シミ・ソバカスだらけだが、二十年後の自分を諦めたくないと暇さえあれば塗るのだった。

芦生の森で癒されたあとは、まったく癒されない佐々里峠に突入する。傾斜が特別きついわけではないが、似たようなつづら折れを延々とパスしなくてはならず、精神的にもやられる。登る前から疲れている脚ではまともにスピードがでるはずもなく、あっという間にみんなの姿を見失ったが、ペダルさえ回し続けていればいつかは頂上に着くわけで、要するに四の五のいわずに漕ぐしかない。

車で上からおりてきたおじさんが、わざわざ窓を開けて「大丈夫か?」と聞いてくる。よほど瀕死に見えたのか。あるいは、たいして若くない女子が荷物をそこそこ積んだ自転車で峠を登らされているのが心配だったのか。おじさんの気持ちは胸に沁みたが、返事をするも面倒なので「うん」とうなずくだけでやり過ごす。

この旅一番の根性をみせてたどり着いた頂上には、数台の自転車が横倒しになっていた。どうやら、しんどかったのは私だけではないらしい。

楽しみにしていた山菜料理のお店は臨時休業だった。私がいると目当ての店が閉まっている確率が高いことは、みんなには黙っていた。幸い、近くの山村都市交流の森で昼食がとれた。メイン×メイン、もしくはメシ×メシというナリフリ構わぬ注文をして一同無言で食べまくる。

この先、花背峠を越えて家に帰るだけなのだが、困ったことにどうにも動きたくない。花背峠といえばローディーたちのトレーニングのメッカで、鞍馬側からの登りはなかなかの距離と勾配があり難易度が高い。それを反対側から越えると、傾斜が緩いかわりにダラダラと長く登り続ける。よく知る峠であるがゆえに、いらないシミュレーションをして嫌になる。峠を越えずに帰れる方法はないものかと頭の中に地図を広げてみるけど、そんなルートありゃしない。わかっているくせに、おバカさん…。現実逃避のため、交流の森内にあるアスレチックでしばし遊ぶ。なぜかターザンロープで笑顔がはじける大人たち。

飲まなきゃいいのに飲んでしまうのがツーリング中のコーラ。暑い日に自販機を見つけると、ついうっかりコーラのボタンを押してしまうのだ。「わかっちゃいるけどやめられない」とはこのことだ。

さっき食べた米とあいまって、お腹タップンタップンで峠に入る私。もうため息が止まらない。「もうちょっとで頂上やで」という店長のやさしい言葉に、「つづら折れがあと一個あるでしょうが!」とキレ気味で返す。

思えば長い二日間だった。日常とはあきらかに違う濃度で時間が流れていた。5人分の時間をミックスした、5倍濃縮の二日間だったのかもしれない。それに、空の色も山の色も同じくらい濃かった。こっちはたぶん私たちとは関係なく、いつも同じ濃厚さでそこにあるのだろう。

別れ際、みんなに「ありがとう」と言うのを忘れてしまった。まいっか。どうせまた会えるんだから。正直いうと、家に着いてからパッキングをほどくのも面倒くさい。だけど今夜はきっと夢もみないくらいに熟睡できる。そして明日会社に行く私は、なんだかホクホクした顔をしているんだろうな。